「202030」、すなわち、多様性のある活力ある社会の実現をめざし、2020年までにあらゆる分野で、指導的地位に占める女性の割合を30%にしようという国のスローガンである。企業においても女性の管理職登用を積極的に増やす方針が打ち出されている。そういう動きを加速させる、女性社長の体験を紹介する本が相次いで出版された。
町工場の娘(ダイヤ精機 社長 諏訪 貴子 著)
ダイヤ精機は日産をはじめとする自動車関係の会社に、ゲージ、治工具を納入する大田区にある従業員30人程度の町工場である。ミクロン単位のゲージを製作する高度なものづくり技術・技能を有している。父親の突然の死から、2004年に社長就任。当時は、バブル崩壊後の景気低迷の影響から、売上げも落ち込み経営難の環境であった。その中で、大学工学部卒、自動車部品会社2年勤務という経験を生かし、3年改革の目標を決め、スタート。先ずは、挨拶と5Sの徹底とQCサークル活動による改善活動、そして、2年目には、生産設備更新の投資、ITによる生産管理システムの導入、3年目には人材の確保と育成のために、チャレンジシートとQC発表会を進め、全員に「これだけはだれにも負けないものを持て」を奨励した。2008年のリーマンショックによる注文の激減、赤字化にも、納入先の現場応援、雇用調整助成金、その後の海外生産用ゲージの受注増で切り抜けた。そして、自動車から医療分野へと新規顧客獲得のため、社長自ら飛び込み営業をしている。「勇気ある経営大賞」、「中小企業ものづくり人材育成大賞」にも挑戦し、自身は「ウーマン・オブ・ザイヤー2013」に選出されている。
絶体絶命でも世界一愛される会社に変える!(石坂産業 社長 石坂 典子著)
石坂産業は、埼玉県の産業廃棄物処理の135人の会社である。廃棄物処理の煙や灰から発生するダイオキシン公害で、地域から大バッシングを受ける中、2002年、父親から永続企業にするという使命を受けて社長業を引き継ぐ。
当初は会長となった父親からの指導をうけたものの、自分で考え行動することで、地域から愛される会社へと改革を進めてきた。就任後、取り組んだことは、① 煙草の吸殻等で汚い6か所あった休憩所を1か所にして、挨拶、就業時間中は仕事をすること、の当たり前の徹底、② 3S(整理、整頓、清掃)の徹底とISO取得。この方針に反対して4割の従業員が去って行ったが、12年間「巡回指導報告書」を欠かさず書いて指導。自ら考え行動できる組織づくりに取り組む、③ 事故件数、トラブルを集計し、データで訴えることで、改善できる社員に育てていった。そして、「掃除大賞」と「文部科学大臣賞」を受賞するに至った。次に、顧客、社員との信頼関係を築く「おもてなし経営」にシフト。里山再生のため、敷地面積の2割がプラント、8割を里山にして、花木園をつくった。ここでは、ホタル、ニホンミツバチが生息する環境に整備されており、従業員が地域、業界からの工場見学と環境教育にあたっている。「おもてなし経営企業50選」にも選ばれ、トヨタ、全日空、中南米・カリブ10カ国の大使まで、見学者があとを絶たない。
2人に共通することは、① 悔いのないよう勇気をもって行動するリーダーシップ、② 挨拶、5Sといったやさしいことの徹底から意識改革、③ 従業員を自ら考え、行動させるようにするしくみづくりと継続的な指導力、④ 創業社長の経営理念を尊重し、技術を継承していること、であろう。そして、2つの本の表紙写真にあるように、2人とも美人。
男性の経営者、管理者の行動指針としても励みになる内容である。