本のタイトルと、「ビル・ゲイツが選んだ最良の書の一冊」という宣伝文句に、惹かれ、購入して読んでみた。著者は、スェーデンの経済史研究家であり、アフリカの経済開発統計の作成と利用についての研究書である。開発に実際に使われている統計データは、あてにならない数値で、開発に関する決定が行われ、数値が操作されていることで「統計はウソをつく」ことを実証している。
社会科学のデータであるだけに背景が複雑で、科学・技術データ以上に解釈が難しいことと、改めて、データを収集、見る時の留意点を学ぶことができた。
物理学や自然科学において、温度や圧力の測定が重要であるように、GDPは、マクロ経済学では、測定基準として最大限の注意を払って扱われるべきものである。因みに、GDP評価には、① 所得アプローチ(利潤、賃金、賃料の関数)、② 生産アプローチ(経済の全部門の付加価値の総計)、③ 支出アプローチ(消費と供給への民間および公共投資と輸出マイナス輸入の総計)の3つの方法で、算出される。問題は、これらの国民経済計算とGDP統計のデータの収集、計算の仕方の違いによる、活用の不味さである。例えば、
- データが、情報源によって異なっている、その結果、南アフリカのGDP順位もバラバラ。統計の質として、データの入手可能性とデータソースは重要である。(計測器が異なったら、データは異なるのと同じ。)
- 人口評価が、植民地時代(徴税を減らすため、過小評価)、独立後(資金配分を増加するため、過大評価)というように、背景で異なっている。
- 時系列で変化を把握するが、計算の基になる基準年がバラバラである。(百分率のデータも取り扱いに注意が必要)
- データの正確さを測定する物差しとなるべき標準は、実際に測定が不可能であるため、集計された経済指標がどこまで正確か、あいまいなままである。
(計測マスターの取り扱いも同じ)
- 統計家は、政治家や資金提供者が都合のいい数値を出す代理人になっている。
最後に、結論として著者が言いたいことは、数字の有用性を評価するために、質的技術の研究による裏付けである。数値は、問題点を確認し、モニターし、評価するために不可欠である。しかし、経済指標の統計数値の正確性を追求することも大切だが、例えば、社会的、経済的、政治的現象の数値は、さまざまな条件の下で、政策が行われた結果であり、歴史学者、政治学者、人類学者などの質的な厳密さが不可欠である。アインシュタインの有名な言葉「数えられるものすべてが大事なわけではなく、大事なものすべてが数えられるわけではない」の後半部分が、このことを指摘している。さらに、重要な数値を生みだすために、統計以外の技術で、合理的な意思決定をすることが大切である。
これは、科学・技術データの解釈における、物理的意味の考察による意思決定と全く同じである。 (杉山 哲朗)