ホンダジェット-開発リーダーが語る30年の全軌跡- | 一般社団法人 中部品質管理協会

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11月2日、三菱航空機のMRJが、初飛行に成功し、飛行機ファンならずとも多くの人々に感動を与えた。その先を行くのがホンダジェトである。著者、前間孝則氏は、元IHIでエンジン設計に従事し、飛行機、自動車、戦艦の開発史を小説にしている技術者である。本書では、開発者へのインタビュー、現地、現物の取材から、技術者に夢と挑戦の素晴らしさを教えてくれる。

ホンダジェットは、1986年、当時の川本社長の指示により、機体は基礎研究センターで入社したばかりの藤野氏、エンジンは和光研究所で藁谷氏の若手メンバーの手によって開発が始まった。

開発は、業界の常識に挑戦する、というホンダスピリットで始まった。すなわち、他のメーカーがつくったものと同じものをつくって何の意味がある。今までにない技術で、今までにない新しい付加価値をもった魅力ある製品をつくりだす。そして、小型ビジネスジェットの業界を変えるというのである。全複合材で前進翼をつくる等、多くの新技術が採用されているが、一目でわかるのは、本の表紙にもある、主翼の上にエンジンを搭載するという独創的な設計である。全体の空気抵抗を低減するという数値流体力学シミュレーションで理論計算、それをボーイングの遷音速風洞試験機で実証し、さらにリアルタイム・フライトシミュレーションで飛行性を確認した。この機体は、ウィスコンシン州の航空ショーで、飛行機ファンに「美しい、自動車のホンダが作ったのか」という感嘆の声をあげさせ、エアクラフトデザインアワード他、二つの賞を受賞した。

開発のプロセスにおいても、ホンダのフラット組織が活かされている。だれでも上の人の考えを直接知ることができ、人を介在せずに、自分の考えを上に正確に伝えることができる。コミュニケーションに時間をかけても、全体として効率的に開発を進めることができたという。

そして、藤野氏のリーダーシップもこれからの新技術開発について教えられる。新しいことをやる時は、今までの専門的な知識、理論による典型的なパターンを一旦リセットして、ものごとをゼロから考えなければならない。リーダーは、調整するのではなく、一人のボスの方針で絶対にやるということ。そのために、開発プロジェクトの全部を理解し、判断レベルに達していなければならない。そして、ホンダジェットで世の中に貢献する、というビジョンを示して動機づけを図り、メンバーの専門知識を引き出し、集団としてのチームワークを求めてきたという。

飛行機は、安全第一であり、隅々まで計算し尽くされた安全設計がされているが試験も厳しい。主翼、胴体の荷重試験の項目は、1000を数える。FAAの型式試験で失敗したのは、鳥吸い込み試験であるが、短期間の設計変更でクリアした。これに関して著者は、「技術は、失敗から学ぶ。技術者は、それによって成長する。」そして、土光さんの言葉、「会社の技術レベルは、その会社の失敗ファイルの厚さで測ることができる。」を、指摘している。

ホンダジェットは、2006年、当時の福井社長が事業化を決定し、いきなり、100機を受注。2007年ノースカロライナ州で、生産を開始した。そして、2015年、日本への初飛行を実現した。

最後に泣ける話。藤野氏が29歳の時、82歳の本田宗一郎氏に、トイレで唯一の出会いがあった。当時は飛行機をやっていることは、社内で本田さんにも極秘であった。藤野氏は、「お伝えすれば、きっと喜ばれただろう。」と述懐している。

ホンダには、「知恵というのは、やってみたところにある。手の中に、また実際に手でやってみて考える」といった本田さんのスピリットが、今も伝承されている。      (杉山 哲朗)