人体600万年史-科学が明かす進化、健康、疫病-(上、下) | 一般社団法人 中部品質管理協会

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ハーバード大学人類進化生物学教授、リーバーマンによる書で、人類の進化の歴史から将来の健康と病気を考えるための示唆を与えてくれる。進化論にあるように人も環境の変化に適応し、自然選択で進化してきた。上巻では人類進化の歴史を紹介する。 ・最初の人類の祖先が類人猿から分岐し、直立2足歩行するのが600万年前。 ・アウストラロピテクス、主食の果実以外の様々な食べ物を食べることができるように、長距離移動ができ、歯と顎が進化。(310万年前) ・ホモエレクトス、大きい脳を進化させた狩猟採集民となる。肉を刻んで食べ、多くのエネルギーをとることができる。(200万年前) ・亜種であるネアンデルタール人と共存し、アフリカから世界各地に分散。火を使うようになるのが100万年前。 ・ホモサピエンス、側頭葉と頭頂葉が発達し、会話に適した声道が進化。道具を発明し、新しい行動を採用し、芸術の形で自己実現ができる。(10万年前) ・狩猟採取民から農耕牧畜民となって、南西アジア、中国、メソポタミア、アンデス山脈等の各地に定住する。(1万年前) ・18世紀後半(250年前)産業革命が起こり、経済上、技術上の大変革。 この後が下巻の進化医学となる。すなわち、農業、産業革命により、人は、労働事情や食生活の環境変化に身体の対応が追いつかず、ミスマッチ病に悩まされることになる。 人は、エネルギーを求めて進化し、それを身体の維持と成長と繁殖に費やしてきたが、産業革命の時代になるとそれが過剰になり、体脂肪となって体重を増やすことになる。また、狩猟時代に比して身体の移動が少なくなり、それらがミスマッチ病の要因となる。 産業革命の後、不衛生な環境と高い人口密度の中で人が暮らすことにより、様々の感染症が発生し死亡率が高くなったが、抗生物質等の医学の進歩によって解消された。その代わりに寿命が延びて有病率を高めることになったのが、糖尿病、心臓病、骨粗鬆症、アレルギー疾患等の現代のミスマッチ病である。エネルギー過剰からの脂肪の蓄積等によるこれらの病気のメカニズムによって、食べ過ぎと運動不足がその根源であることを知らされる。 今、私たちは、美味しいものを食べ、身体を動かさずに裕福な生活を享受できる代わりに、それが原因と判っていても、それを次世代に伝えていってしまう悪循環(著者は、ディスエボリューションと呼ぶ)に陥っているのである。日常的にも、靴をはく、読書をする、座っていることの快適さの裏に、足の異常、近視、腰痛で悩まされている。 このディスエボリューションを食い止め、ミスマッチ病の発生を予防するのがこれからの課題で、未来の医学が、がんや糖尿病を撲滅してくれるのを座して待つか。今まで、文化的進化が身体の進化のスピードを上回ってしまって副産物としてミスマッチ病が生まれてしまったわけであるが、著者は、発生する見込みを下げ、予防する新しい文化的進化としての科学、行動、教育の実践を提言する。そして、自ら「裸足への回帰」を実践している。 行動経済学によれば、人は長期的な目標には合理的であるように見えても、すぐ先のことには、あまり合理的ではない欲求や行動や快楽に任せてしまいがちであるという。 私たちの健康は、その誘惑の克服にかかっているといえよう。     (杉山 哲朗)