陸王 | 一般社団法人 中部品質管理協会

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池井戸潤の作で、テレビドラマ化された「下町ロケット」の第2弾といえる。

中小企業が大企業に勝つという勧善懲悪のスジ書きで、商品開発における登場人物の喜怒哀楽を、ドラマで見るように気持ちよく読めた。そして、ものづくりの心を教えてくれる。

話の内容は、行田市にある足袋を製造する100年の老舗、「こはぜ屋」(正社員とパートを合わせて27人の従業員の中小企業)が、マラソンシューズを開発し、スポーツシューズメーカーの大企業アトランティスに挑むというストーリー。

社長の宮沢が、お得意先のデパートで5本指のランニングシューズを見て、家業の地下足袋から発展できると考えて、新規事業として取り組むことにした。縫製現場の片腕である安田、リーダーのおばさん、あけみさん、デザインを担当してきた富久子さん、金庫番である経理の富島ゲンさん、そして息子の大地のメンンバー、そして、シューズのソールを天然ゴムよりも軽くて強靭な繭から作る製造技術の特許を持つ飯山と、シューフィッター(シューズメーカーが、マラソン選手に合わせたシューズを製作するために契約しているアドバイザー)の村野が加わり、「陸王」の開発が始まる。

そして、紆余曲折の開発過程を経て、最後には、実業団のニューイヤー駅伝で、「陸王」を履いたマラソンランナー茂木が、アトランティスの「RⅡ」を履いたライバルの毛島に勝つという話である。アトランティスのシューフィッターから、「RⅡ」の使用を誘われた茂木が、自分のために「陸王」を作ってくれた、こはぜ屋のメンバーの心と応援を受け止めて懸命に走る描写も、結果は判っていても感動する。

こんな話もある。陸王の開発をやっている中で、このソールに使っている繭の材料を本業の地下足袋にも使えるという社長の発想の転換による改良である。

ストーリーの中で、著者が登場人物に語らせるビジネスの教訓を、いくつか紹介する。

・社長。新しいことをやるなら体力のあるこのタイミングしかない。リスクのないところに成長はない。ビジネスというのは一人でやるもんじゃないんだな。理解してくれる協力者がいて、技術があって、情熱がある。一つの製品をつくること自体が、チームでマラソンを走るようなものなんだ。

・繭のソールを量産化した飯山。「ちょっとした事に気付いて、乗り切る迄が大変だ。」強度を出すために2カ月ほどかけて、強さや時間、設備改造を繰り返し失敗してきたが、繭の温度に気がついて成功。量産化は、重要な品質特性をコントロ-ルできて初めて可能になる。

・シューフィッターの村野。シューズをつくるには、足の形はもちろん、選手のクセ、長所・短所、性格まで知らなければならない。シューズだけどシューズでない、心意気というか、プライドというか、魂なんだ。

・飯山が、新人の大地に仕事とは、を教える言葉。大事なのは会社の大小でなくて、プライドをもって仕事ができるかどうかだ。本当のプライドは看板でも肩書でもない。自分の仕事に抱くもので、自分の仕事に対する責任と価値を見出せるかだ。人生の賭けには、それなりの覚悟が必要だ。そして、勝つためには、全力を尽くす、愚痴をいわず、人のせいにせず、できることは全てやる。そして、結果を真摯に受け止めることだ。

暑い夏の清涼剤として、一気に読みました。             (杉山 哲朗)