今、日本で元気な経営者といえば、ファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井 正社長を挙げることができる。銀座、ニューヨーク5番街に大規模の旗艦店を立ち上げ、中国では、現在の170店舗から、将来は3000店舗を目指すという。そして、公用語を英語としてグローバルに展開し、2020年には、売上5兆円、利益1兆円を目標に掲げる。近著、「現実を視よ」では、今の日本の危機感を伝え、誇れる日本を取り戻すには何をすべきかを考え抜いて欲しい、と訴える。日本を想う大和魂に感動した。
バブル崩壊以降、20年間で成長が止まってしまった日本の現実(GDPが中国に追い抜かれ第3位に後退、累積債務残高のGDP比率が約2倍とギリシャよりも悪い、原発事故の国家の危機に対して機能しない政治の実態、等々)を事実による裏づけをもとにして指摘する。そして、もはや政治家や官僚が変わってくれることを待っている時間はない。今の日本人にとって大切なことは「志をもって生きる」ことであり、ジョン・F・ケネディの大統領就任演説の「国があなたのために何ができるかではなく、あなたが国のために何ができるか、問いかけてください。」の言葉を引用して、国民一人ひとりが当事者になって、現状を変革することに向けてチャレンジすることを呼びかけている。
以下は、本書で提言している柳井さんの考え方のメッセージの要点である。
1.起こっていることは、すべて正しい。「いいモノ」とは何かを決めるのは、世間であって、自社のエンジニアやマーケターではない。
2.人間は求めていい。人間は無限の可能性に満ちた存在で、磨けば磨くほど輝くダイヤモンドの原石である。一人ひとりが「最大幸福」を追求してこそ、国も繁栄できる。
3.需要は「ある」のではなく「つくりだす」。顧客の立場に立って「何に不満を感じるか」頭を絞って考える。そして、ユーザーにとっていかなる価値を持つかを正しく訴えること。
4.サムスンに躍進の秘訣を聞きに行け。学ぶことに思い込みは不要。国境も関係ない。
5.売れる商品は、世界中どこでも同じ。顧客に対して最高の商品とサービスを提供するという日本の商売の基本を、どの国の人にも伝えるような「顧客志向」を貫く。
6.100億円売ろうと決めねば、100億円売れない。先入観、成功体験を忘れてゼロベースで戦略をつくる。現象を抽象化して数値化することによって事実がみえてくる。
7.戦うのなら、「勝ち戦」をすること。
8.日本語はハンデにはならない。勤勉で努力を惜しまない、仕事に対する責任感、謙虚に学ぶ姿勢、思いやりの心といった日本人らしさは、どこの国にいっても受け入れられる。
9.日本の「商人道」をとりもどせ。資源に恵まれない日本は、一所懸命に商売をして稼ぐ以外に生きる道はない。
10.苦しいときほど「理想」をもて。理想があればいろいろなことが見えてくる。理想が大きいほど頑張れるし、エネルギーもでてくる。
最後に、「あるべき未来のために、国民一人ひとりが、自分は何ができるかを考える。当事者になって、実行する。そうなったとき、この国は変わる。」と訴える、柳井さんの心意気に敬意を表したい。 (杉山 哲朗)