日本企業はモノづくりの強みを標榜し、世界へと市場を拡大してきたが、これからの競争に打ち勝っていくためには、顧客価値提供のあり方を変えるビジネスモデルの革新が重要である。そのためには、モノの価値だけでなく、顧客価値を中心におくこと、顧客やパートナーとの関係性の創出、能力やノウハウ等、社内外の知的資産の活用が必要である。
アップルが、iPod、iTube、iPhoneへと、複数の顧客を結びつけるマルチサイド・プラットフォームのビジネスモデルを進化させ、世界的な企業へと躍進できたのは、スティ-ブ・ジョブズという天才の力によるものだと言われるかもしれない。本書によれば、ビジネスモデルは、プロセスとして構造化して管理でき、組織全体が持っている創造性を活用することによって、誰にでも実現可能である。ビジネスモデル構築のための考え方、進め方を具体的なツールと併せて、標準として教えてくれる。
ビジネスモデルは、下図のビジネスモデル・キャンパスと呼ぶ、9つの構築ブロックから成る。
これを使うことによって、プロジェクトの全体像と役割、相互関係を視覚的に理解でき、グループメンバーがポストイットやマーカーを使ってスケッチし、ビジネスモデルを議論しながら、理解、分析、創造を進めていくことができる。
身近なビジネスモデルを紹介すると、① 保険モデル。多くの顧客が少額の契約金を定期的に支払うことによって、実際の支払いを受ける少数の人々を支える構造になっている。② エサと釣り針モデル。ジレットは、カミソリを格安で提供し、使い捨ての替刃で利益を挙げている。プリンターメーカーのプリンターとインクカートリッジも同様である。他にも、多くのビジネスモデルのパターンと、その欧米における成功事例を、先のビジネスモデル・キャンパスで説明し、さらに、ビジネスモデルづくりのためのデザイン、戦略、プロセスを丁寧に教えてくれる。
ビジネスモデルのデザインは経営企画部門だけでやるものではない。様々な部門、階層や専門家を集めたチームをつくって、総智・総力を挙げてやることが大切である。また、ビジネスモデルをデザインするためには、未開拓のものを発見し、新しいものを生み出し、最善の方法を選択しなければならない。そのための思考ツールとして、ビジュアルシンキング、プロトタイプ、ストーリーテリング、シナリオ作成が紹介されている。これらのツールは、ビジネスモデル構築だけでなく、プロジェクトを進めていく上で、全体像の本質の理解、対話の促進、アイディアの探究、コミュニケーションの向上、に役立つ。
本書自体、45カ国、470人による事例が紹介され、図式を使ってビジュアルに解説されていて判りやすい。自分たちでもこれをテキストにして実行すれば、新しいビジネスモデルを発想できそうだと思わせる。 (杉山 哲朗)