本の帯に「イノベーションは、天才だけが起こすものではない。誰にでもできる“システム”である。」とある。ドブリンというコンサルタント会社が、成功企業のイノベーション事例と、長年、取り組んできたノウハウを整理した本で、コンセプトの発想から実行まで、会社の大小さまざまなイノベーションの方法論として役立つ。
イノベーションには、次の10のタイプがある。( )内はその事例。①利益モデル(ジレットのカミソリの替え刃は、使い捨ての替え刃で利益を得ている)、②ネットワーク(東芝のパソコンとロジスティック部門であるUPS)、③組織構造(サウスウェスト航空は、1種類の航空機で運行を合理化)、④プロセス(トヨタ生産方式)、⑤製品性能(ダイソンのデュアルサイクロン掃除機)、⑥製品システム(マイクロソフトのソフトウェアパッケージ)、⑦サービス(セブンイレブンの料金支払いの補完サービス)、⑧チャネル(アマゾンの電子書籍も購入)、⑨ブランド(「インテル入ってる」のキャンペーン)⑩顧客エンゲージメント(アップルの世界開発者会議の製品発表)。さらに、これらの要素に関する詳細の方法として、数多くのイノベーション戦術とその作戦(使い方)を紹介している。
レクサスには、数少ないディーラーのネットワーク、エンジンの静かさ、一人一人の顧客に対する家庭的なサービスがあり、デルには24時間休みなしのサービスとコンピュータのオンライン販売があるように、複数のイノベーション要素を混ぜ合わせることで大きなイノベーション効果を生み出すことができる。
イノベーションのブレークスルーを生み出すためには、①変化に気付く(成功と失敗の検証)、②産業別のイノベーションを分析し市場の変化のパターンを知る、③別の産業を参考にして、自分の産業を捉えなおす(例、ホテルのサービスからアイディアを借用した病院)、④内側(社内)を眺める、周囲を眺める、遠くに目をやる、⑤目標を明確にしてそれに必要な人材を配置する、⑥環境と競合を分析し、必要に応じて、現状のイノベーションのパターンをシフトしていく、等が大切である。
次に、効果的なイノベーションを進めるためのリーダーの役割として、人は変化を嫌うという慣性を克服し、未来へ向かわせる機運を高めること、さらには、自ら望む変革を成功に導く要件(方針、組織、資源、評価基準とインセンティブ)を整え、長期的に、確実に、反復的にイノベーションを実現する組織能力を築いていくことが大切である。さらに、イノベーションの実行にあたってのプロトタイプやパイロット試験のやり方、財務戦略についても解説している。
最後に、ここに紹介しているのは、イノベーションの科学的な支援ツールである。もう一つ、イノベーション・プロジェクトに取り組む人のアートとして、肝がすわっていて、危険にひるむことなく、無から有を生み出すために、粘り強く、献身的に働き、慣例にとらわれないマインドセットが不可欠であるとしている。 (杉山 哲朗)